
いよいよフジフォトサロンでの展覧会まで一ヶ月ほどに。撮影はほぼ打ち切るとして、ここのところ暗室にこもる時間が多くなってきた。今回はすべて8x10からの大全紙のバライタプリントだ。
プリントの処方は現像液のみ自家製であとはフジの市販品を使っている。
現像液も始めはフジの市販品を使ってみたのだが、どうしても黒の色調がやや赤くなるために(印画紙はフジのレンブラントG2)すこし温黒調になるアンスコ A120という処方を使う事にした。
この処方は亜硫酸ナトリウムと炭酸ナトリウムを現像主薬にする至ってシンプルなもので、薬品もカメラ量販店ですぐ手に入るのでおすすめだ。この処方箋は最後に書いておく事にする。
現像液の安定性も悪くなく、現像能力もそこそこ実用に堪える。
今回はちょっと専門的な話になって恐縮だが、おそらく参考になる方もいらっしゃると思うので、数回にわけて僕の暗室作法をご紹介する事にしよう。
ただしこれはあくまでも僕の自己流であってアカデミックな観点からすると間違っている事があるかもしれないので、その時はご遠慮なくご忠告いただきたい。僕の勉強にもなるので。
第一回
プリント現像
露光のコツ
プリントにおいて最も大切なのが露光の仕方である。昔はシングルグレードであったので、単純だったのだが、今はマルチグレードになっているため、かなり複雑になっている。
今回は僕の自己流の露光方法をご紹介する。
まずテスト用の小さい印画紙に普段の基本露光をする。例えば絞りは11で2号のフィルターで10秒。それを現像してみて感じが良かったとしよう。もちろんそれで良いのだが、最近のマルチグレードはコントラスト優先のために、どうしても黒の締まりが悪い。印画紙自体の銀の量が減っていることもあるのだが。そこで5号のフィルターを使って暗部の黒を締めることにする。10秒の基本露光を20%減らす。そして5号を50%の時間露光する。この場合8秒の基本露光(2号)と5秒の第二露光(5号)をする。そして必要ならばもう一度2号に戻して空などの明るい部分を焼き込む。そうするとほぼ基本と同じ露光濃度になるだろう。そして黒が締まっているはずだ。
また難しいのは周辺を覆い焼きしたいとき。レンズの癖によって周辺が濃くなってしまっていて、どうしても均一にフラットに焼くことが難しい。その場合は露光時間を4回に分ける。一回2.5秒にしてしまえばいい。そうして右上だけ、左上だけと順に覆い焼きしていけば同じように四隅が覆い焼きできる。最終的に露光時間は10秒になる訳だ。こんな単純なことが以外と役立つ。出来る限り単純に考えることである。
現像のコツ
バットは焼くサイズのものであればなんでも良いが、全紙など大伸ばしのときはアメリカ製のセスコライトのものが使いやすい。その訳はバットの四隅が緩やかに湾曲しているので印画紙を撹拌したときに紙の四隅が痛まないからである。このバットを5枚用意する。左から順に、水、現像液、停止液、第一定着液、第二定着液、である。場合によってはもう一枚追加して第二現像液を用意する事もある。ただしこれは以前シングルグレードの印画紙が主流だった頃に軟調現像と硬調現像を組み合わせて広いダイナミックレンジを得るためだった。よく試みたのは第一現像にコダックのセレクトールソフトを使用し、第二現像にデクトールを使用して暗部のコントラストを締めるというものだ。しかし今はマルチグレードの印画紙が主流のため、露光段階で号数をミックスする事によってその効果を得る事が出来るようになった。従って現像バットは一枚でいいのである。しかし効果がない訳ではないのでスペースがあればぜひやって欲しい。
一枚目のバットが水である。これは最近あまりやらないが、以前はよくやった水現のためだ。水現とはその字の通り水現像(現像できる訳ではないのだが)で、露光した印画紙をまずこの水に一分間浸す。印画紙に水がなじんだら現像液に。そうする事によって初期の現像斑を押さえる事が出来る。写真によってだが、故意にフラットで浅いプリントに仕上げるときにはかなり重要な手順になる。フィルム現像では当たり前に行われるのだが、意外にもプリント現像でそれをする人は少ない。またかなり詳しい専門書にも書かれていない。従って僕の自己流だがこれはぜひ試していただきたい。
ただし枚数が多くなると、現像液の濃度が薄くなるのでその分の時間調整が必要になる。
という訳でまず印画紙を手前からそっと水のバットに入れる。僕は全紙の様な大きな印画紙の場合は竹ピンを使わず、直接指で印画紙をつまむ。そのほうが印画紙を痛めない。
次に水になじませた印画紙を両手でつかんで上から滑らすように一気に現像液に浸す。その時乳剤面は上になるように。印画紙は予め濡れているので自然に現像液に馴染みうっすらと像が現れてきたところで裏返す。規定時間の約三分の二を過ぎたら再び裏返して、現像を押したいハイライト部などを優しく指でこするといい。そこの液の流速が早くなる事によって現像が進み白のトーンを豊かにする事が出来るのである。僕の平均的な現像時間は、ノーマルの処方液(アンスコA120)の場合は20度で二分半ぐらいであるが、たまに写真用グリシンを使った特殊なオートトーニング現像液の場合はセーフライトを消して20分近く現像する場合もある。そんな日は一日やっても納得のできるプリントは一枚か二枚しか仕上げる事は出来ない。
ところで理想的なプリントとはどういう状態であろうか。人によって様々ではあるが、マニュアル的に言えば完全な黒からぎりぎり認識できる白(紙の白ではなく、あくまで画像の白である)までが再現されているということである。ここで難しいのが黒の濃度の見極め方だ。かなり前に黒の濃度を測る器具もあったのだが、今は手に入るまい。そこで僕はガイドとしてグレースケールを露光時間によって作りそのガイドをもとに最暗部の黒の濃度を決める。実際のプリントの最暗部をプリントしてガイドと比較して、同じ濃度が出れば、その状態から約5%露光時間を短くしてプリントする。これは乾燥後の濃度増加を見越してで、ドライダウンという。そして白も同じようにしてガイドを作っておくと重宝する。ただし現像液の種類や印画紙によって変わるのでそこは揃えるように。
余談だがドライダウンは乾いてみないとわからないが、待っていられないものである。その場合テストピースをちょっと台所に持ってい行き、電子レンジで乾かしてしまうという手がある。5分でドライダウンが確認できる。これはあの巨匠アンセルアダムス氏もやっていたと言うが定かではない。電子レンジが何時からあったのかということを考えると、ちょっと怪しい。(笑)
さて、現像液にプリントが浸っている時はバットの手前の角に指をかけて優しく液を回すように撹拌する。コツは子供を寝かしつける様な感じで、優しく穏やかに一定のスピードが大切である。先ほど説明したように、このとき何故印画紙は裏返しておく。なぜ裏返すかという事をご説明する。
現像液に入ってすこしばかり浮き上がってきた写真を見たら印画紙を裏返してしまう。そうすると当然現像の進む写真を見る事が出来ない。その間にバットを揺らしながら頭の中で写真をイメージ現像するのである。自分のイメージを新ためて液の中の印画紙に焼き付けるのだ。頭の中に正しい写真が浮き上がってくる。そうしたら印画紙を再び表に返す。うまく念じるとその通りに現像が進んでいる。まるでオカルト念写であるが本当なのである。疲れていてそこに集中できない日はいくらやってもうまく行かない。人間の能力とは不思議な力の固まりだ。
現像が終わった印画紙は再び優しく手でつまみ上げてあまり時間をかけずに停止液の中に滑り込ませる。ここでも丁寧に撹拌しながら、時間は30秒くらい
。そして同じ動作で第一定着に。定着液だが第一定着を新しい液にして、第二定着を前日の古いものにするといいだろう。第一定着に浸して約一分したら照明をつける。そして三分したら第二定着に移す。ただし安心して第二定着に印画紙をつけ過ぎでいるのは良くない。なぜならバライタ紙の繊維の中に定着分がしみ込みすぎて、規定の水洗では残留成分が十分に洗い流されなくなり、いずれそれが変色などを引き起こす事になるためだ。規定時間に足りないのは当然だめだが、長ければいいという訳ではないのである。
規定時間の定着を終えた印画紙は予備水洗に回すのだが、ここから大切なアーカイブ処理をしなくてはならない。次回はアーカイブの処理方法について。
